パワハラ防止を通して職場環境の改善を創造する職場環境改善工房

お問い合わせは090-7312-3133

事例紹介

職場のうつ病 法律を味方に改善

2017年2月23日

2017年1月30日 毎日新聞の記事です。
http://mainichi.jp/premier/health/articles/20170127/med/00m/010/008000c

 

【引用はじめ】

長時間労働、パワハラといった職場の問題でうつ病になったうえ、上司や会社側との関係がこじれにこじれてしまった--そんな孤立無援のピンチにおいて助け舟となるのが「法律」だ。なかには、法律を味方につけたことがきっかけとなり、病気を克服した人もいるという。それはいったいなぜなのか? 働く人が知っておきたい法制度とは--。多くのうつ病患者たちを支援してきた東京法律事務所の笹山尚人弁護士に話を聞いた。

法律は職場で孤立したときの心強い味方

もしも今、職場のストレスでうつ病にかかったとしたら、味方になってくれる人は周囲に何人いますか?

心の病を抱える人は、職場で孤立してしまうことがあります。病気のせいで集中力、判断力を欠き、周囲との連係プレーがしづらくなるせいでしょうか。上司から目をつけられている場合は、上司と敵対関係になりたくないからと、よそよそしい態度をとる同僚もいます。夫婦や恋人は最大の戦友ですが、甘えをぶつけやすい相手だけに、関係が危うくなりがちです。

自分を肯定してくれる相手がいないまま闘病生活を続けていると、「世の中から隔絶されてしまった」という思いにとらわれ、なおさら病状が悪化しかねません。しかし、そんなときでも心強い味方になってくれるものがあります。それが「法律」です。

私は2000年に弁護士となり、以来、若い働き手、非正規雇用の働き手の権利に関心を持ち続け、労働者側に立った労働事件を数多く取り扱ってきました。依頼人の中には、うつ病の人も少なくありませんでした。長時間労働やパワハラによって心を病み、労災申請や損害賠償請求をしたい、と相談に来られる方々です。

法律に訴えることのメリットは

労災や損害賠償という言葉を、聞き慣れていない人もいるかと思うので、簡単に説明しましょう。

労災は労災保険による治療や休業などの補償のことで、認定されると給与の8割が支給されます。受給期間の制限はなく、会社側は労災終了後30日まで解雇できないことになっています。損害賠償とは、債務不履行(契約や約束事を守らないこと)、あるいは違法な行為によって被った損害を償ってもらうことです。精神的な損害の場合は、違法行為、つまり法で定められた安全配慮義務を会社側が怠ったとし、治療実費や慰謝料などを請求します。具体的には、「発症前1カ月間の時間外労働が100時間程度を超える」「パワハラ・セクハラがあった」などのケースが該当します。

精神障害の労災は、自分自身や家族、親族に関する要因、既往歴やお酒の飲み過ぎといった本人の要因があれば認定されにくくなります。損害賠償請求も証拠が整わなければ認められません。裁判が数年にわたり長引くこともありえます。

それでも、職場の問題が原因で心を病んだ場合、法律に訴えることにはメリットがある、と私は考えます。「自分は間違っていない」ということを、世の中に正々堂々と示すことができるからです。また、認定や賠償を勝ち取ることができれば、「あなたは間違っていない」と、公に肯定してもらったことになります。自分を否定しがちなうつ病患者にとっては、それが何より力になるのです。

裁判官の一言が病状を一変させた

法という手段に訴えたことで、実際に病気がよくなったケースを何度か目の当たりにした経験があります。

ある年末のことです。ちょうどうつ病の損害賠償事件で、和解が成立しようとしていました。依頼人、つまり原告にとっては、裁判所に足を運ぶのもこれで最後という日、私は裁判官に「彼に何かコメントしてあげてください」と頼みました。

すると、3人の担当裁判官一人ひとりが親身な言葉をかけてくれたのです。「大変な苦労をされましたね。私があなたの立場でも、うつ病を発症してしまったと思います」--今のコメントをもらっただけでこの闘いに勝った気がする、と本人は感動を隠せない様子でした。

和解は無事成立し、年が明けました。打ち合わせに現れた依頼人の姿を見て、私は思わず息をのみました。最後に裁判所で会ってからわずか数週間。その間に、薬の影響か肥満していた体はすっきり痩せ、顔色もいきいきとして、まるで別人のようになっていたのです。「転職先が決まりました。この春からまた働き始めます」とうれしそうに声を弾ませ、報告してくれました。

出勤票や録音データなど証拠の用意は大切

うつ病は、「○カ月、服薬すれば完治する」「手術で治る」といった病気ではありません。多くの人がいつ終わるともしれない闘病生活を続けています。しかし、法において正しいと認められ、心情的にも理解されれば、それをきっかけに立ち直ることもありうるのです。

もちろん、会社側に非があっても、有効な証拠がなければ思ったような結果は得られません。被害を受けた証拠になる、次のような資料を用意しておきましょう。

・出勤票など長時間労働の記録

・録音データ

・相手からのメール

・自分のメール(第三者に被害内容を訴えたものでもよい)

・事実関係を記したメモ

なお、法的に問題になるパワハラとは、「辞めろ」「おまえの仕事ぶりにイライラする」といった叱責よりも、業務に関係のないプライベートなことについての嫌がらせです。容姿や学歴、家庭問題について踏み込んだ発言が決め手になります。損害賠償請求をするには、労災認定が下りていたほうが有利です。まずは、弁護士、または都道府県の労働相談機関などに相談してみましょう。

ただし、うつ病が重症化してしまった人ほど、手続きや面談、裁判などで外出したり、人と話したりするのがつらくなってしまうことが多いようです。決して無理せず、主治医の意見を聞いたうえで行動に移してください。

うつ病は誰がいつ発症するかわからない病気。今、必要なくても「最終的には法律という味方がある」ということは、頭に入れておくといいかもしれません。

◇   ◇   ◇

ささやま・なおと 1970年札幌市生まれ。94年、中央大学法学部卒業。2000年、弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。弁護士登録以来、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に担当している。著書に「人が壊れてゆく職場」「それ、パワハラです」(以上、光文社)、「労働法はぼくらの味方!」「パワハラに負けない!」(以上、岩波書店)、「ブラック企業によろしく」(KADOKAWA)など。
【引用終わり】