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事例紹介

まるでサスペンス? 密室はいかに裁かれるのか(1)

2015年1月8日

2014年12月16日 読売新聞の記事です。

http://www.yomiuri.co.jp/job/navi/kaneko/20141212-OYT8T50241.html?from=yartcl_blist

 

【引用はじめ】

セクハラ事件の一番やっかいなことは、事件の多くが二人だけの場面で起こされている場合が多いことです。

 そして、当事者双方の言い分がまったく同じであれば問題はないのですが、言い分に食い違いがあることが多く、180度違うこともしばしば起きます。

 まさに事件があったのかなかったのかの判断は、2人だけの密室の中にあるということになります。そこで、2人の言い分から事実の有無を判断しなければならないわけですから、そのジャッジには多くの困難が伴うのはいうまでもありません。

 企業も、セクハラの訴えがあれば企業の雇用主としての配慮義務を果たさなければならないことから、事実の有無を認定し、被害者の人権救済への適切な対応が求められることになります。

 そして、厚生労働省の指針などに沿った適切な対応をしなければ民法715条の「使用者責任」を問われることになります。しかし、こうした調査にはプライバシーの問題も絡むことから、事実調査にもおのずと限界もあります。

双方の言い分を慎重に検討

 また、当事者にとっても「あったこと」を「なかったこと」にされたり、「なかったこと」を「あったこと」にされたりしたのでは、とても納得できることにはなりません。こんな場合には、どのように判断されるのでしょうか。こうしたサスペンスもどきのテーマについて、「裁判所はどのように判断しているのか」を手掛かりに考えてみることにします。

 裁判所といえども、こうしたセクハラについて特別の判断の基準を持っているわけではありません。そこで、他の密室事件と同様に、事実関係を精査し、双方の言い分を慎重に検討して、どちらの言い分に矛盾があり、どちらが嘘(うそ)をついているのかを判断することになります。

 しかし、セクハラの場合には、性に関わるジェンダー・バイアスと言われる男女の意識差があり、そのことから判断基準のズレが起こります。時には裁判官を巻き込んで起きる、こうしたジェンダーに絡む意識差が結果を大きく左右することになります。

証言が真っ向から対立

 とりあえずは、密室はどのように判断されているのか、一つの裁判例でみていくことにしましょう。大手コンピュータ会社の部長が部下の女性に対してセクハラをしたとして懲戒解雇になり、この懲戒解雇は無効であるとして訴えた裁判です。(「日本HPセクハラ解雇事件」東京地裁H17.1.31)

 訴えられたセクハラの内容は部下の女性に日常的にセクハラ発言をしたり、身体的な接触を繰り返した上、飲食を共にした際に無理やりキスをしたり、深夜自宅まで押しかけて車に乗せ、車中で手を握るなどし、残業中に胸を触ったりしたというものです。

 これに対して部長はセクハラ行為を全面的に否認し、セクハラを受けたとする女性部下との供述が対立しました。第三者的な客観的な証拠、証言もないなか、どちらの言い分がただしいのかが争われた事件です。こうした密室裁判で裁判所は、次のような幾つかの判断ポイントを示しています。こうしたポイントを見ることで、おおむね、裁判所の密室への判断基準を知ることができます。

具体的かつ詳細で一貫していた被害者の供述

 この事件で裁判所は<1>被害者の供述は、それぞれが具体的かつ詳細なものであり、不自然・不合理な点は見当たらないこと、<2>被害者の供述は、会社からの事情聴取時点からすでに具体的かつ詳細なものであり、その後も当審の証言まで概ね一貫していること、<3>被害者は部長から高い評価を得ており、被害者が殊更虚偽の供述をしてまで部長を陥れなければならないような事情はうかがえないこと、<4>被害者は27歳の独身女性であるところ、部長から身体を触られたりキスをされたことを第三者に述べることは、相当な心理的抵抗があったものと推認することができ、被害者の供述には信憑性(しんぴょうせい)がある、と判断しています。

 密室での出来事の判断について、次回以降も更に検討してみたいと思います。

【引用おわり】