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事例紹介

(現場から:2)裁量なく長時間労働、心病む 2014衆院選

2014年12月15日

2014年12月7日朝日新聞の記事です。

http://digital.asahi.com/articles/DA3S11494335.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11494335

 

 

【引用はじめ】

なぜ夫は死を選んだのか――。肥後銀行に勤めていた男性行員の妻は、労災認定を受けた後の2013年6月、損害賠償を求めて同行を相手取って提訴した。

亡くなる2カ月前の12年8月、男性が銀行に申告していた残業時間は約40時間だった。だが、職場のパソコンに残った使用履歴などを調べると、実際には8月の残業は優に100時間を超えていた。

勤務時間は行員の自己申告に任されていた。実際に働いた時間より少なく申告した月が続いており、原告の代理人を務めた松丸正弁護士は「本当は何時間働いたのか、銀行は把握する責任がある。それを怠ったことが亡くなった最大の原因だ」と指摘する。

今年10月、熊本地裁は計1億2890万円の支払いを銀行に命じた。判決を受けて肥後銀は「労働時間の管理を経営の最重要課題として取り組む」とし、パソコンの使用履歴から勤務時間を正確に把握し、残業が多い行員は上司らが面談するなどの防止策を進める。

過労死や過労自殺の労災認定は後を絶たない。13年度の労働力調査によると、会社などに雇われている働き手の約8%にあたる430万人が、週60時間以上働いている。国は月80時間の残業を「過労死ライン」としており、大量の「過労死予備軍」がいる計算だ。

東京都の元システムエンジニアの男性(32)も、「過労死ライン」を超えて働いたことがある。

専門学校を出て三つのIT企業を渡り歩いた。働きすぎで心の病気になり、いずれも辞めた。今は無職だ。

4年前まで、都内の中小のIT企業で働いていた。職場は「裁量労働制」をとっていた。仕事の配分や何時間働くかの判断を働き手に任せることで、成果をあげようとする働き方だ。

しかし、男性はチームの一員としてシステムの開発にあたっていた。一日の仕事は工程表で前もって決められ、自分の裁量で仕事の配分を決めることはほとんどできない。仕事に追われ、朝9時の出勤から夜10時以降まで働き続けた。

入社して3年たったころ、気分が落ちこみ朝起きられなくなり、病院で「うつ状態」と診断された。体調を壊すほど働いても、月収は35万円を下回った。裁量労働制では追加の残業代は出ず、深夜手当は夜10時を過ぎないとつかないからだ。

単純なプログラミング作業しかできない新人も、同じ制度で働いていた。「残業代を払わない方便として裁量労働制が使われていた」と振り返る。

だましだまし働いたが耐えられず、退職した。

男性の今の気がかりは、安倍政権が進める労働時間規制の緩和だ。働いた時間と関係なく、成果で賃金を払うとする「残業代ゼロ」となる働き方が、厚生労働省の審議会で議論される。

労使で合意すればいくらでも残業させられる現在の制度では、割増賃金の支払い義務が残業を抑える数少ない歯止めだ。しかし、「残業代ゼロ」制度の下では、それもなくなる。

働き手の立場はどうしても会社に比べると弱くなる。男性はいう。「心置きなく、会社は社員を無制限にこき使うだろう」

■働きすぎに歯止めを

過労死は1980年代後半から社会問題とされてきたが、20年以上たっても一向になくならない。働きすぎで心を病んで労災請求する人も大きく増えている。

今年6月、過労死の実態調査や防止策の推進を国に義務づける「過労死等防止対策推進法」が、超党派の国会議員による議員立法で成立した。今回の衆院選でも、「過労死ゼロ」をめざす考え方に対し、異を唱える主要政党はない。

だが、働き方のルールづくりをめぐる議論は、本当にその方向に進んでいるのだろうか。安倍政権は、労働時間の規制を外す「残業代ゼロ」となる働き方を導入しようとしている。

本人の同意が必要というが、立場の弱い働き手が会社から「同意」を迫られれば、断り切れないかもしれない。過重な仕事を頼まれて嫌とはいえないことは、どの職場でもある。長時間労働が当たり前の社会では、働きすぎをさらに助長させる恐れもある。

過労死防止法ができたのは一歩前進だ。だが、この法律に働きすぎを直接規制する条文はない。具体策の議論は、これからだ。

例えば、欧州連合(EU)諸国では、退社から翌日の出勤までに連続11時間の休息を確保する「勤務間インターバル規制」がある。また、残業を含めても働く時間を週48時間以内におさめることが、EU諸国では原則になってもいる。

働きすぎによる悲劇を防ぐために、労働時間の規制緩和よりも、長時間労働の歯止めづくりにまず取り組むべきだ。(牧内昇平)

◆キーワード

<「残業代ゼロ」制と裁量労働制> 「残業代ゼロ」は、働いた時間にかかわらず、成果に応じて賃金を払うとする制度。残業や深夜、休日の割増賃金が出なくなる。政府案では「年収1千万円以上の高度な職業能力を有する人」が対象だが、経済界には拡大を求める声がある。

裁量労働制は、労使で前もって想定した労働時間に応じて賃金が払われる。実際の労働時間が想定を超えても、追加の残業代は出ないが、深夜や休日に働いた場合の手当は通常通り支払われる。年収要件はない。

【引用終わり】